【25年ごしに評価された作品】密やかな結晶の魅力

【紹介する本】密やかな結晶@小川洋子

密やかな結晶【電子書籍】[ 小川洋子 ]

1994年に書き下ろされた作品が
2019年のイギリス文学賞候補作品として
脚光を浴びました

それが”密やかな結晶”です

きっかけがないと、
本を手に取ろうとさえ思えません。

今回は、
25年の時を経て
日本ではなく海外で
再度脚光を浴びたこの作品の魅力が気になり
読み進めてみました。

ぜひ、本を手に取るきっかけになればと思います。

密やかの結晶の魅力

設定が面白い

この本の魅力はなんといっても
“設定”にあると思います。

端的に言えば
“世界からモノが一つずつなくなっていく世界”です

そして、
その世界は確実に
モノが生み出されるよりも
消滅していく時間の方が短い世界に成っています。

つまり、確実に最後はゼロになるわけです。
何も無くなるわけです。

そういう意味で、
パニックに陥っていくような
ディストピア小説になるかと思いきや
そういうわけではないのです。

どこにどう落ち着いていくのか
正直さっぱりわからないまま
読み進めることになります

不思議な感覚がまた魅力的だと言えます

ちぐはぐさが面白い

まず25年も前に描かれているにもかかわらず
すんなり読めてしまうところが不思議です

作者は”アンネの日記”に感化されたということで
作中に出てくる秘密警察という存在は
まさにナチスドイツ時代をオマージュしているようです

一方で、
ものがどんどんなくなって
一人一人は職を失い
生きる術も失っていく。

まさに、いろんな変革に飲まれて
過去の技術がどんどん行き場を失うような
ある種の未来を彷彿とさせるような
そんな作品でもあります。

自分が、どの立ち位置から読み進めるかで
印象が変わってくるのだろうと感じます。

純文学小説の魅力

この作品を通して、初めて純文学作品を読みました

読んでみた感想としては
“一種の思考実験のようだ”
ということでした。

思考実験というのは
『もし、人間が宇宙までボールを投げるためには
どれくらいの速さで投げればよいでしょうか』
のような、現実にはありえない事柄を
数式ベースで結論づける机上検討のことを言います

純文学小説はそれに近いものを感じます。

よくある小説は
“終わり”の設定が明確だと思います。

犯人見つけるだとか、
ボスを倒すだとか、
そんな感じです。

一方で、この作品では
“あるべきものが不定期に消滅していく国”
という設定だけがあって
後は、よーいどん。

物語の中の登場人物が
その場の決断を委ねることで
作品が進行していきます。

すなわち、
ある境遇にあるキャラクターを置いて、
机上で生活させる。

そうすることで、
現実離れした設定でも
まさにそこに人間が生きている環境を用意できるのです。

読書は疑似体験とも言いますが
作者にとっては思考実験の賜物とも言えるかもしれません

最後に

今まで読んでこなかった類の小説も
読んでみると刺激があるものだと感じました。

特に、
純文学という作品は
より作者の心の深い部分に近い気がするので、
どこか、作者と会話をしているような
気にもなれます。

読者としては
極限状態の疑似体験ができるという意味で
非常に有意義な時間を過ごすことができます。

一方で、
何か、試してみたい事柄がある場合
思考実験することもおそらく面白いのだろうと思いますし
その手段として、
物語を書き綴るというのも面白そうだと思いました。

いろんなことを考えるきっかけをくれた
“密やかな結晶”に感謝したいです。

ぜひ読んでみては?

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